医療事故の刑事告訴2 民事との交錯(痔の手術後の縫合不全事案)

平成22年に千葉県の病院で起きた死亡事故です。

第1 事案の概要

患者:女性(60歳)  事故の原因:痔の手術(PPH)

死亡経過:総合病院で、痔の簡単な日帰り手術と説明されていた手術を受け、当日帰宅したが、帰宅途中から大腿部の痛みがあり、何度か同病院に電話したが、病院側では手術が足の痛みの原因と考えず、受診させてくれなかったため、3日後の未明、救急車を呼んで同病院に緊急入院したところ、同日朝になって、術後に起きていた縫合不全が原因で、出血、下肢の疼痛、敗血症が生じていたと判明し、午後から緊急手術が行われたが、救命できず、翌日死亡。

刑事・民事の手続経過

平成23年に私の方に告訴と民事訴訟のご相談がありましたが、遠方であるため、解決方法と弁護士の探し方のご説明をし、受任しなかったところ、翌24年、どうしても適任の弁護士を見つけられないのでお願いしたいと、再度のご依頼を受けましたので、私の方で基礎調査と刑事告訴のみを受任し、民事訴訟は東京方面で弁護士を見つけて頂きました。

カルテの検討、文献調査、消化器内科と消化器外科の協力医の先生を見つけ、それぞれ意見書を作成頂いた上、千葉地検特別刑事部に告訴を打診したところ、「通常事件で手一杯で動けないので、千葉県警に告訴して欲しい」旨のかなり率直で具体的なお話がありましたので、平成25年、千葉県警に告訴状案と証拠一式を送付の上、相談に出向いたところ、即日、予想外の速さで告訴受理(罪名:業務上過失致死)されました。

以後、警察・検察による有識者のヒアリング及び担当医師の取調べを含む詳細な捜査が続けられ、並行して東京の弁護士による民事訴訟が進められ、民事訴訟は全面勝訴したものの、刑事については、病院側も反省していることと、救命可能性の立証に難点があることを理由としいて、民事判決後に不起訴処分がなされました。

 

第2 論点

民事・刑事に共通する立証上の問題点

過失(検査・治療の遅れ=大腿部痛の訴えに対し、手術との関連性を想起し、手術部位の確認と血液検査をすることが遅れたこと)

因果関係(過失が認められる時点で、検査・治療を開始していた場合、救命できたか)

民事・刑事に共通する法律構成

遅くとも3日未明の入院直後までに、速やかに血液検査と手術部位の確認を行い、抗生剤投与→緊急手術を行えば、救命できた。

 

民事訴訟における勝訴理由

裁判所は、裁判所が選定した鑑定人(専門医)による鑑定と証人尋問等の証拠から、原告の主張を認めた。

刑事事件が不起訴となった理由

本件は、過失が認定できる時点での救命可能性の判断が、医師によって分かれる事案であり、救命可能性に関し、原告(検察)側が「高度の蓋然性」を有する程度(10中8、9真実であると考えられる程度)の立証をしなければならないところ、検察は、その程度の立証に不安があると判断し、不起訴とした。

 

民事と刑事で結論が分かれた理由=検察が起訴に踏み切らなかった理由

1 検察が要求する立証のレベル

原告側に高度の蓋然性のレベルの立証が要請される点は、民事も刑事も共通であるから、刑事でも起訴していれば、有罪となった可能性は十分ある。しかし、日本の検察は、百%有罪を目指し、通常の事件では、確実に有罪に出来る証拠があると判断しなければ起訴しない。

検察は公益の代表者という立場があり、完全に被害者側に立つわけでもない

本件のような完璧な立証が困難な事案では、民事で勝訴できる可能性があるのに、不起訴にする傾向がある。被害者多数の殺人事件など、社会的影響の大きい事件では、多少のリスクを冒して、より低いレベルの立証で起訴する場合もあるが、本件のような事案では、無理はしない

2 民事と刑事における証拠法則、法律構成の違い

ア 民事訴訟では、刑事訴訟と異なり。伝聞法則が適用されないため、提出可能な書証の範囲が格段に広い。よって、難事件でも、原告側の努力で、打開できる可能性がより広い。

イ 民事では、刑事のように、被害への因果関係を100%の立証ができなくても、一定程度の立証(救命できた相当程度の蓋然性)ができれば、損害賠償義務が認められる場合があるため、全面敗訴はない、という見通しをもって提訴できる

 

第3 まとめ

民事と刑事の結論が分かれた典型的な事件です。民事訴訟を担当した弁護士も刑事訴訟を担当した警察・検察も、それぞれ職責を果たしており、上述の理由で結論が分かれたと考えています。不起訴になったとはいえ、警察・検察の捜査で、病院側の対応に問題があったことは確認され、病院側の反省(検察官の説明)をもたらすなど、告訴の意義はある。

 




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