医療事故の刑事告訴 1 総論

1 医療事故に関し、「刑事告訴できますか」と、よくお尋ねがあります。

できる事案とできない事案があり、できる事案は、端的に言えば、被害の原因となった医療行為を特定でき、過失と因果関係の証明ができる場合です。

以上の点は民事訴訟でも刑事告訴でも同じです。

2 刑事が民事と決定的に異なる点は、国家機関が捜査と裁判を行うため、被害者としては、自力で裁判を行うこことはできず、告訴又は被害届を警察・検察に受理して貰うしかない点と、刑事事件にできるためには、殺人、傷害、業務過失致死傷という、犯罪の構成要件に該当する必要がある点です。

前者の事情があり、警察・検察は、一般に、刑事裁判で有罪になる見通しが持てる事件でなければ告訴を受理しないため、刑事告訴は、民事損害賠償請求に比べ、ハードルが高くなります。この点を理解頂くには、詳しい説明が必要ですので、別に書きます。

後者の構成要件該当性は、故意がある場合はあまり問題になりませんが、故意がない通常の事案の場合、医療事故のため、治療が長引いたとか、痛い思いをしたとか、いうだけでは、刑法上の業務上過失致死傷罪とは言えないので、民事責任を問える場合はあっても、刑事はできません。刑事事件とするには、人の健康状態を悪化させたと評価できることが必要です。私が札幌地検の検事時代に取り扱った事件として、出産前に母体の治療の遅れで胎児を死亡させたが、胎児は刑法上は人ではないので、告訴事実のままでは、犯罪に該当しないという事件がありました。この事件は、母体に対する傷害を立証するという工夫をし、起訴しています。

なお、告訴(犯罪事実を申告し、処罰を求める)と被害届(被害を届け出る)の違いはわずかであり、被害者として、「告訴」が起訴の要件となっている特定の犯罪以外は、あまり気にする必要がありません。医療事故の場合は、犯罪事実の構成が難しく、慎重に行う必要があるため、被害届ではなく、告訴受理で対応することが多いようです。

3 話を戻しますと、被害の原因となった医療行為を特定でき、過失と因果関係の証明ができる場合は、民事損害賠償請求が可能ですし、殺人、傷害、業務上過失致死傷のいずれかの構成要件に該当する限り、刑事告訴も可能です。

ここで刑事告訴が「可能」という意味は、告訴状を作成して警察又は検察に持って行き、告訴受理を要望すると、受理してくれるという意味です。上記要件がなければ、証拠がない、あれが足りない、これが足りない、弁護士を通じてやって欲しい、などと言われ、受理して貰えません。そのような事例が圧倒多数を占めています。

4 最初のご相談の時点で、刑事告訴可能・不可能の判断ができる場合と、事実関係を調査しないと、判断できない場合があります。最初のご相談の時点で、刑事告訴可能と判断できる事件は、治療時の人違いや、投薬の間違いなど、極端な事案に限定され、そのような事件は、被害者が告訴するまでもなく、警察が自発的に捜査を開始し、後から被害届を出して貰うか、告訴を受理するかしますので、被害者の方からのご相談があることは稀です。調査しないと判断できないケースが最も多く、この点も民事と同じです。

5 刑事告訴が受理されることは非常に少なく、検察時代・弁護士時代を通して、多数の刑事事件を扱ってきた私でも、検察官として医療事故の告訴を受理し、起訴したことは前述の札幌地検時代の1回(出産前の治療の遅れ)しかなく、弁護士として、医療事故の告訴が受理されたことは、3回(投薬間違い、縫合不全の治療の遅れ、腹部手術時のミス)しかありません。

 




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